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からだの悩み・意識を変革し「自分らしいキャリア」を後押しするフェムテック

女性のキャリアとは切っても切り離せない、生理、妊娠、出産、更年期—。
今回は、そんな体の悩みを解決するフェムテック企業、fermata Singapore(フェルマータ・シンガポール)より、丹野直美さんをお招きしてお話しいただきました。

前編となるこの記事では、いま話題の「フェムテック」をテーマとしています。
前半に、丹野さんに話していただいたフェムテック、fermata Singaporeの紹介を、後半はCAREER MARK共同代表の鎌田からの質問として、いま現在のリアルなフェムテック事情を探る対談を収録しました。
最先端のフェムテックアイテムや、世界で大きなうねりを生み出しつつあるフェムテックの潮流を知ることができる内容となっています。

尚、今回のnote記事は、CAREER MARKが運営する部活動「キャリアカフェ・ドイツ部」(以下ドイツ部)が企画し、ドイツ部のメンバーが対談の司会進行、記事作成を行っています。
☆キャリアに悩む駐在妻へのヒントがあふれた「キャリア編」(後編)はこちらから
☆ドイツでキャリアを語るドイツ部note記事はこちらをご覧ください。

1. フェムテック、fermata Singaporeについて

ゲスト:丹野直美さん
シンガポール在住。
ベンチャーキャピタルファンド勤務の傍ら、2020年7月よりfermata Singapore・カントリーマネージャーを務める。

 

——丹野さん、今回はこのような機会をいただきましてありがとうございます。早速ですが、まずはフェムテックとは何かという基本から、丹野さんが働かれているfermata Singaporeについても教えていただけますでしょうか?

丹野さん(以下敬称略):
はい、まず、フェムテック(femtech)は“female”(女性)と、“technology”(技術)をかけあわせた言葉で、生理、妊娠、更年期など、女性特有の健康課題をテクノロジーで解決するプロダクトやサービスのことを表しています。 また、サービスやプロダクトだけではなくて、女性の心身にまつわるタブー、固定観念や、価値観を変容するムーブメントとして捉える側面もあります。

このフェムテックという言葉を生み出したのが、ドイツ発の月経管理アプリ「クルー(Clue)」の創業者のイダ・ティンさんです。2012年、彼女は「フェムテック」という造語を作ることで新しい市場の存在を示し、男性中心の投資家から理解を得にくかった月経管理アプリの資金調達に成功したと言われています。

フェムテックの製品カテゴリーには、生理、不妊、妊よう性(※1)、妊娠、産後ケア、メンタルウェルネス、セクシャルウェルネス、更年期などがあり、女性のライフサイクルのほぼすべてをカバーしています。

※1 妊よう性‥「妊娠するための力」のこと

≪fermata Singaporeで扱う商品の一例≫
左上:Kegg(ケッグ)。おりものを測定し、妊娠しやすい日を把握するためのデバイス。膣に入れて計測し、その結果がすぐにアプリ上で確認できる。
右上:Lilu(リル)ハンズフリーマッサージブラ。ブラの中に空気袋が入っており、その空気袋が電動で動くことによって母乳の出を良くし、ハンズフリーで搾乳しやすくなるよう設計されている。
左下:Perifit(ペリフィット)。骨盤底筋トレーニングができるアイテム。膣に入れ、アプリと連動させて使用する。アプリにゲームが複数用意されており、楽しみながら骨盤底筋を鍛えられる製品。
右下:Lioness(ライオネス)。セクシャルウェルネスアイテムで、自分のオーガズムをアプリ上で可視化できるバイブレーター。

いまフェムテックが話題になっている背景

丹野:
いまなぜフェムテックが盛り上がりを見せているのか、そこには「女性の健康」の進化が遅かった背景があります。原因のひとつは、女性の健康課題がタブー視されていた社会や文化です。また、医学分野で女性の健康関連の研究や治験データが少なかった側面や、女性の起業家・投資家が少なく、新しい製品が生み出されにくかったという要因もありました。
現在は働き方や生き方が多様化し、女性の社会進出が進んだり、出産回数が減ったり、または生まない選択肢をとったりと、ライフスタイルは大きく変化しました。しかし、女性のライフスタイルが変化しても、生理や妊娠といった体の機能自体は変わらないですよね。そのため、生活の変化と自身の体との間にギャップが生まれ、体の不調に悩む女性が多くなっているのではないでしょうか。
実際、昔の女性と比べ、現代の女性は生涯月経回数が約10倍になっているともいわれ、その負荷によって生じる健康課題が増えていると思われます。

フェムテックは女性の健康課題というタブーの領域だからこそ、いま見えている需要や社会へのインパクトは、まだまだ氷山の一角にすぎないと言われているんです。経済産業省のレポート(※2)によると、日本におけるフェムテックの経済効果は2025年に約2兆円になるという試算も出ていて、フェムテックが女性の健康課題を解決し、社会に変革をもたらすのではないかと期待されています。

※2 出典元:https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/R2fy_femtech.pdf

「タブーをワクワクに」fermataの想い

丹野:
fermataについて少し紹介させていただくと、私たちは「あなたのタブーがワクワクに変わる日まで」を合言葉に、フェムテック市場の日本・アジアでの拡大を目指し、女性のウェルネスに関連した事業を展開しています。
fermataを通じて私たちが叶えていきたいのは、これまでは「しょうがない」「こうあるべき」と捉えていたような、さまざまな固定観念を解消していくことです。
日本では実店舗とオンライン、シンガポールではオンラインで、世界から厳選したフェムテックアイテムを販売しています。
それ以外にも、「Femtech Fes!」というイベントを開催し、世界各国から集めた150を超えるフェムテックアイテムの展示会を行ったり、世界中のフェムテック・スタートアップ企業を調査して、マーケットマップを作ったりもしています。また、国内外の企業と組み、フェムテック事業を拡大していくサポートも行っています。

2. fermata Singapore×CAREER MARK 対談

「フェムテック」をきっかけに会話が生まれる

——丹野さんのお話を伺って、fermataさんの目指す「タブーをワクワクに」、「固定観念の解消」という部分が、CAREER MARKの掲げる「駐在帯同≠キャリアのブランク」、「駐在妻が自分だけのキャリアを誇れるように」というコンセプトとつながっていると感じました。それぞれフィジカル/キャリアという視点から、マイナスに捉えられていたことをプラスに変えていく、という共通点がありますよね。
ここからは、鎌田から丹野さんに向けて、フェムテックについての質問を投げかける対談形式で進めていきたいと思います。

鎌田:
私はフェムテックという言葉を2020年頃から耳にしていたのですが、この対談を控えて最近家庭で「フェムテック、フェムテック」と言っていたら、夫に「フェムテックって何?」と聞かれまして。それで、“female”と“technology”をかけあわせた造語だよって説明したのですが、こういう名前、言葉があるのってすごくいいなと思いました。言葉を説明する時に、「女性には生理の痛みとか、更年期とかの健康課題があるんだけど、それに対してテクノロジーの力で解決していこうっていう分野がいま、すごく盛り上がってるんだ」って話をしたら、夫が「あ、そういうところに悩むんだね」と言っていたんです。フェムテックという言葉をキーワードに会話のきっかけができて、悩みを知ってもらう機会ができるなと、夫との会話から感じました。

丹野:
そうですね、フェムテックは会話のきっかけづくりに非常に役立つと私も感じます。
生理痛が重い方の中には、なかなか周囲に言えないとか、パートナーにも伝えにくく感じる方もいるかと思います。そこに対して、例えば、見た目がかわいい生理痛緩和のフェムテックデバイスを持ち出すことで、「これ買ったんだけど、なんだと思う?」と会話を切り出したりできるのかな、と。そのアイテムをきっかけにして、「実は私は生理痛がすごくつらくて、ひと月のうち3日間は動けないくらいになるんだ」と話せるかもしれませんよね。周囲もそこまでの痛みだとは知らずにいることも多いと思うので、理解できたらケアもしやすいと思うのです。
特に男性は、いままで知る機会がなかったために女性の健康に意識がいかなかったという方も多いと思います。理解を進めるために、フェムテックが役立ってほしいです。

日本と世界のフェムテックムーブメント

鎌田:
フェムテックという言葉をよく聞くようにはなってきたのですが、日本では大きな変革は起きているのでしょうか?

丹野:
日本では大きなムーブメントが起きていると思います。2020年が日本のフェムテック元年と言われており、生理をテーマに取り上げる雑誌やテレビ番組が増え、メディアで扱われることが多くなりましたね。

鎌田:
日本だと広く認知されているのは吸水ショーツですよね。

丹野:
そうですね。フェムテックアイテムのなかでも吸水ショーツが圧倒的に人気だと思います。ユニクロさんが2021年に吸水ショーツを発売して、いっきに認知度が上がりました。大企業が扱うようになったということは、産業的にもフェムテックが認められてきたんだなと感じます。

鎌田:
他国でのフェムテックムーブメントはどういったものなんでしょうか?

丹野:
私の暮らすシンガポールでは、2021年にフェムテック元年のような兆しがあったんですが、広まりを見せているのは、実は生理用品じゃないんですよね。シンガポールで最近興っているスタートアップは、性感染症やホルモンのセルフ検査キットをオンラインで購入できるサービスとか、セクシャルウェルネス系の商品とか、日本とはちょっとカテゴリーが違うのですが、メディアや投資業界を中心に、フェムテックの認知度が上がってきた感じがあります。

鎌田:
日本とシンガポールでは、異なるカテゴリーが注目されているんですね。

丹野:
世界的に見ると、アメリカではかなり早くフェムテックムーブメントが起こりました。吸水ショーツだと、アメリカでは10年以上前から広まりを見せていて、ヨーロッパやオーストラリアでも珍しいものではありません。
欧米の特徴は、スタートアップ企業の数が多く、活発なことです。大規模な資金調達を行い、最先端のテクノロジーやAIを使って新商品やサービスを生みだしています。
エルビー(Elvie)というブランドが良い例で、彼女たちが開発した搾乳機はコードレスでブラの中にスポッと入る非常にコンパクトなものです。フェムテック業界をリードするようなブランドになっています。

出典元:https://www.elvie.com/en-us/shop/elvie-pump

鎌田:
それは、本当に役立ちそうですね。
これまでは搾乳時に手がふさがっていたのが解決されますよね。

丹野:
そうなんですよ。見た目もスッキリしていますし。
ただ、まだ値段的には高いんですよね。全てそろえて買うと日本円にして7~8万円くらいでしょうか。

鎌田:
困るけど、搾乳する時期って短いですからね。

丹野:
もっとムーブメントが大きくなれば、大量生産できるようになり、安い価格で手に入れやすいアイテムになってくると思うんです。

——私の暮らすドイツでは、薬局で搾乳機をレンタルすることが多いんです。産婦人科の検診で処方箋をもらい、それを薬局に持っていくと搾乳機が借りられます。加入する保険にもよりますが、レンタル費用もカバーされることが多いと聞きます。日本では、個人的にレンタルはできるけど、自治体で補助するというのはあまり聞かないですよね。

丹野:
フェムテックを扱っていると、各国のそういった医療の保険制度だとか、規制の違いを感じることが多くあります。日本は、安全性に対してとても要求が厳しい。それには良い面も、良くない面もあります。良くないという意味では、新しい製品をなかなか導入しにくいんですね。承認プロセスに時間とお金がかかるんです。
近年は議会や行政がフェムテック支援に動いており、嬉しい流れだと感じます。

世代によって違う?セクシャルアイテムへの意識

鎌田:
今回丹野さんとの対談をきっかけに、乃木坂にあるfermataさんの店舗に伺って、実際に商品を手に取ってみました。

丹野:
スタッフによると、店舗に来るお客様は、自分の悩みを積極的に話してくれるそうです。誰かに聞いてもらいたいという欲求を、実は多くの方が抱えているんじゃないかなと思うんですよね。だから、そのように話せる場所があるのはいいことだと思います。
乃木坂の店舗にはカップルで来られる方や、男性がパートナーのために購入されたり、ご高齢の方もいらっしゃるそうです。

鎌田:
幅広い年齢の方が店舗を利用されているのですね。
丹野さんに年齢層のことでひとつ伺いたいなと思っていたんです。fermataさんで扱う商品を見たときに、生理や妊娠にまつわるアイテムに関してはフムフムってすぐ受け入れられたんですけど、セクシャルアイテムに関しては「おお!こんなのも売ってるんだ」と驚きまして。オーガズムとか、なにか触れてはいけないことに触れているような、私はそういう感覚の40代なんです。そういったセクシャルウェルネス系のグッズにオープンに興味を持つのって、もっと若い人なんじゃないかと思うのですが、実際にはどうなんでしょうか‥。

丹野:
セクシャルウェルネスグッズに抵抗がないのは、Z世代(※3)以降の人たちが多い印象です。fermataのスタッフは若いメンバーが多いのですが、商品やブランドをよく研究していますし、オープンに話していますね。

鎌田:
Z世代の方たちが比較的オープンなのは、どうしてなんでしょうね。

丹野:
fermataのスタッフを見ていると、彼女たちはインターネットやインスタグラムで世界中の情報にリーチできるので、フェムテックで活躍しているブランドや商品など、いろんなことを知っています。情報に触れるなかで、あるブランドが発信するビジョンだったり、メッセージに共感するんでしょうね。そうすると、私ももっと性についてオープンに発信していこう、というようなモチベーションになるんじゃないかな、と思います。そのような子たちが発信して、インフルエンサーになって、それを見ている若い世代の人たちもまた同じように価値観がちょっとずつ変わっていく、みたいな連鎖が起きているのではと私は思います。
でも、私の周りの40代や50代の友人も、「最近セクシャルウェルネスにちょっと興味があって」と言ってくれたりして、きっと年代に関係なく興味はあるんでしょうね。個人的には、更年期に入っていく世代にもマッチするんじゃないかと思っています。
セクシャルウェルネスって、ちょっと視点を変えると、自分のメンタルがポジティブになる、自分の体と向き合える、癒しになる、といった側面もあるのではないでしょうか。

※3 Z世代‥1990年代半ばから2000年代に生まれた世代とされており、幼いころからインターネットやデジタルデバイスに触れてきたことが特徴で、「デジタルネイティブ」だと言われる。

世界では女性の性をオープンにしようという動きも

鎌田:
日本はやっぱり、そういうセクシャルなことに対しては一般的にオープンじゃないですよね。

丹野:
まだまだ恥ずかしいと思う方がきっと多いんじゃないかと思います。

鎌田:
私がイギリスに住んでいた頃、セクシャルウェルネス系グッズのCMがテレビで普通に流れていたんですよ。あと、びっくりだったのが、裸の下半身から好きな人を選ぶっていうマッチングの番組があって。下半身からどんどん上を見ていって、人柄も好きかどうか見るためにコミュニケーションもとって、最後に顔がオープンになり、初対面なのにお互いがヌードで出会ってハグするという、そんな番組を毎週のようにやっていました。

丹野:
ええ〜!それはすごい。イギリスはかなりオープンなんですね。
海外では、女性の性のタブーをなくしていこうという声があがっていますね。
私たちが取り扱っている、デイム(Dame)というニューヨーク発の女性向けプレジャーアイテムのブランドがありまして、以前、ニューヨークの地下鉄に商品広告を出そうとしたら、却下されたそうです。でも、男性向けプレジャーアイテムの広告は、男性器を連想させるような広告でも実際に採用されていたわけです。デイムの広告は性器を思わせるようなものでもないのにどうして却下されたんだ、と彼らは訴訟を起こし、何年も裁判を続けて最近勝訴したというエピソードがあります。

先進的と思われるアメリカでも、女性の性をオープンにすることに対していまだに戦っていたりするんですよね。
話しちゃいけないこと、我慢すること、隠しておくこと、というタブーの意識に気づいて、自身の心身の健康のためにオープンにしてよい、と表に出していくムーブメントが、それこそ世界同時発生的に生まれている状況は面白いですし、希望を感じます。

鎌田:
日本における女性の体や健康課題へのタブー視は、文化的なアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)と言われるそうですね。だから実は、女性である私たち自身も知識不足なんだと感じます。
丹野さんが話されていた、フェムテックがもたらす約2兆円のインパクトという経済的な切り口から「女性の社会進出のために、健康課題はテクノロジーで解決すべきもの」という認識が広まって、女性の体や健康課題をタブーとする固定観念の解消にもつながってほしいですよね。
フェムテックが広がれば、ジェンダーギャップ解消の一助になるはず。まさにfermataとCAREER MARKが実現したい社会に近づきますね。

 

文:横田 マリ子
対談運営:CAREEER MARK キャリアカフェドイツ部

 

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