CAREER MARK公式ブログ

駐妻キャリア支援CAREER MARKのブログです。 駐在妻・もと駐在妻の人材紹介を通して「また働きたい駐在妻」と 「もっと成長したい企業」をつなぎ、 ブランクがあってもまたチカラを発揮できる社会を目指しています。 駐在妻の再就職インタビューやキャリアセミナーレポートなどを掲載中!

駐在妻のもやもや、どうしたらいいですか?臨床心理士の先生に聞きました

駐在妻の暮らしは華やかなように見えて、実は「もやもやする」「不安になる」という話をよく聞きます。
その悩みの正体はいったい何なのでしょうか?また、解決策はあるのでしょうか。
駐在妻のキャリアを支援しているCAREER MARKが、
ご自身も駐在妻の経験があり、現在はシンガポールで勤務されている臨床心理士の原田先生に伺いました。

3回にわたって、原田先生とキャリアコンサルタントとのインタビュー対談をお送りします!

臨床心理士 原田 舞香 様

◇プロフィール◇
原田 舞香 (はらだ まいか)様
臨床心理士、公認心理師。
専門は海外在住日本人のメンタルヘルス対策、女性のライフキャリア支援、勤労者のメンタルへルス対策、及びこれらに関する研究。

2009年~2015年:中国・北京市に駐在帯同
2017年:駐在妻ライフキャリア研究所 開設
2018年:シンガポールに駐在帯同
現在、シンガポール日本人会クリニックに臨床心理士・公認心理師として勤務(非常勤)

◇聞き手◇
小橋 友美
CAREER MARK キャリアコンサルタント) 

「駐在妻のもやもやの正体、一体なんなのでしょうか?」


【小橋】
これまでCAREER MARKでは、セミナーや個別相談を通じてたくさんの駐在妻から「もやもやする」という声を聞いてきました。
そのほとんどが「恵まれているはずなのに苦しい」「このままでいいのか焦るけど、何をしたらいいかわからない」という漠然とした不安です。この気持ちは何だと思われますか?

【原田先生(以下、敬称略)】
私は駐在妻さん達のもやもやの正体、漠然とした不安は、主に海外生活が自分で決定したことではないことと、将来の見通しがつかないことによるものが多いように感じています。

配偶者の駐在に帯同して海外で生活を始めたことは、多くの駐在妻の方にとって、自分の意思とは別のものです。

心理学では「自己決定理論」というものがあり、簡単に説明しますと、自分自身で決定した物事に対してはモチベーションを高く持って取り組み、高いパフォーマンスを発揮することが出来る一方、そうでないことは、高いモチベーションやパフォーマンスを保ちにくいと考えられています。それから、自分自身の将来の見通しが立たないなど、将来がどのようになるか分からない状況でも、人間は不安になりやすいと考えられており、ごく自然な反応と考えられます。

【小橋】
「自分で決定したことではない」という言葉にハッとしました。
確かに夫の駐在についていくと決めたのは自分です。
でもその決断をするまでに、自分ではどうしようもない現実があることを知り、様々な葛藤があった人が多いと思います。

特に会社を辞めるかどうかについては、みんなすごく悩んだと思うんです。辞める決断をしたとしてもすべてを納得したわけではなく、ほとんど時間切れのような形でそう決めたというのが実際のところではないかと感じています。
結果としてその葛藤やもやもやを抱えたまま海外生活がスタートした、というのが多くの駐在妻の現実ではないかな、というのが私の実感です。

また将来の見通しがつかないことの不安についてですが、確かにCAREER MARKで出会った多くの駐在妻さんも口にされていました。
特にCAREER MARKを利用される駐在妻のみなさんは「また仕事はできるのだろうか」という不安もお持ちの方が多いです。
ここ数年は改善されてきているものの、それでも日本の転職市場では仕事をしていない期間を「ブランク」と呼んで大きくマイナス評価する傾向にあります。
ブランク期間があっても働きたいという意欲ある人への専門的なサポートやサービスもほとんどありませんでした。

何年後に日本に帰れるのかわからないという生活面での見通しがつかないことに加え、仕事復帰への見通しの難しさも、より一層もやもやを生み出す背景なのでしょうね。

【原田】
そうですね、葛藤の末の苦渋の決断・やむを得ない選択だったからこそ、配偶者や周囲に「でも、仕事を辞めて海外駐在に帯同したのを決めたのは自分でしょ?」と言われ、傷ついている方もおられると思います。

後述しているように「ブランク」をご自分にとってのブランクではない、有意義な時間にして行くことも必要ですが、とりわけ昨年以降のコロナ禍では、駐在妻に限らず先の見通しが付かないながらも「何とかなるさ!」という見通しが立たない状況を受け容れて過ごしていく力(ネガティブ・ケイパビリティ)も求められています

こういった個々人の努力だけではなく、仰るように日本の転職市場もまた、仕事をしていない期間を「ブランク」と捉え、女性の再就職へのハードルが未だ高いという面もあるので、大きなテーマにはなりますが。
社会の変革も必要だと考えられますね。

CAREER MARK セミナーの様子(2018年)

落ち込みやすいのはどんな人?

【小橋】
駐在帯同のように環境が変化したとき、落ち込みやすい人とそうでない人はいますか?また性格のタイプなど傾向はありますか?

【原田】
元来どうしてもネガティブに考えがちな方、心配症の方、自分を周囲の人と比べがちな方が比較的落ち込みやすいように感じます。
その一方で、日本ではお仕事を精力的にこなしていた活動的な方であっても、駐在帯同に伴い、後述の「アイデンティティ・ロス」の問題で落ち込む場合もあるようです。

【小橋】
と言うことは、どんな方でも状況によっては落ち込むことはあるということですね。

CAREER MARKのセミナーでも紹介させていただきましたが、原田先生が寄稿されていた「異文化適応過程(※1)」がとても勉強になりました。この話を紹介することで、
「落ち込むのは自分が弱いせいではないのですね」
「自然な反応なんですね」
というコメントをセミナー参加者からもらうことも多いです。

【原田】
そのように、皆様のお役に立っていると伺い、大変嬉しく思います。

(※1)原田舞香さん「海外在住日本人の『異文化適応過程』」より
(シンガポール日本人会機関紙「南十字星」2019年2月号)

【異文化適応過程について】
①ハネムーン期:新しい環境のすべてが目新しく、前向きに適応しようと頑張る時期
②ショック期:海外生活の限界に失望したり狭い日本人社会のストレスを感じる時期
③回復期:葛藤や努力、周囲のサポートなどで徐々に適応していく時期
④適応期:多少の波はあるもののおおむね安定した生活が過ごせる時期

夫や子どもが落ち込んでいるときは

【小橋】
駐在員やその子どもでも、もやもやしたり落ち込んだりすることはあるのでしょうか?またどんな理由でそうなるのでしょうか?

【原田】
駐在員にとっても、子ども達にとっても、環境の変化は大きいものです。

駐在員は基本的に、朝から晩まで、週5日間、仕事に時間を費やし、コロナ前は職場で過ごしていました。
様々なケースがありますが、とりわけ言葉の壁の問題に向き合うこと、ローカルスタッフとの文化や習慣の違いにストレスを感じ、もやもやしたり落ち込んだりすることが多いと考えられます。

お子さん達にとっても、一日の多くを過ごす園や学校が変わることで、先生や友達が変わり、新しい人間関係を構築して行かなければならないということは大きなストレスとなります。
現地校やインターナショナルスクールなど、日本語以外で教育を受ける場合は、年齢が上がる程、言葉の壁の問題は大きくなって来るようです。お子さんの個性や、その環境によって様々なケースが考えられますが、こういったことからストレスを受け、もやもやや落ち込む原因になっていると考えられます。

【小橋】
駐在員である配偶者も、そして子供も、環境の変化…人間関係や文化・習慣の変化でストレスを感じやすいのですね。
違う国で暮らすというのは、やっぱり誰にとっても大変なことなんだなと感じてしまいました。

ただ駐在妻として生活していると、自分自身がワンオペ育児だったり、アイデンティティ・クライシスだったりして、家族に対して余裕ある気持ちで接することは難しいときもあります。

それでもやっぱり、家族で元気に楽しく暮らしたい!と思います。

配偶者や子供がストレスで辛そうなとき、どんな声掛けや対応を心がければよいでしょうか。

【原田】
そうですね、まずは配偶者やお子さん方にとっても、新しい環境での生活に適応していくということは、ストレスが溜まって当然だ、ということを理解し、ご本人たちに「だから、無理しなくていいよ」と伝えてあげることでしょうか。

そして私たち駐在妻も新しい環境・新しい生活に精一杯な状況ですので、その言葉はそっくりそのまま、ご自身にも伝えてあげてよいのです

家事が辛い時は、家が散らかっていたっていい。食事の支度が面倒な時は、(居住国にも拠りますが)デリバリーや、手抜き料理だって構わないのです。
そもそも、海外にいながら家族の口に合う料理を用意することには、日本では考えられないほど労力が必要だったりしますよね。お子さんや配偶者の方が過ごすご家庭のかなめとなる駐在妻さんご自身にとって、ストレスを溜め過ぎず、心と身体の声に耳を傾け、ゆとりをもって過ごせることを最優先に考えてくださいね。

【小橋】
温かいお言葉をありがとうございます。
せっかくの海外生活だから、つい楽しまないと!とか、頑張らないと!と思ってしまうのですが、おっしゃるとおり日本と同じように家事をするだけでも大変なことなんですよね。
家族に自分自身にも、心と身体の声に耳を傾けてあげたいと思います。

専門家かつ駐在妻ならではのアドバイスには心を軽くしてくれる魔法の言葉がたくさん。
原田先生、ありがとうございます。


・・・

最後まで読んでくださってありがとうございました。
この記事があなたのもやもやの正体を知る手助けになればうれしいです!

次回は「駐在帯同期間、何をすればいいのでしょうか?」をテーマに、引き続き原田先生にお話を伺います!

◆第1回:「駐在妻のもやもや、どうしたらいいですか?臨床心理士の先生に聞きました」
◆第2回:「駐在帯同期間、何をしたらいいですか?」

◆第3回:「駐在帯同をチャンスに!5つのポイント」

 

文:CAREER MARK キャリアコンサルタント 小橋友美

 

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